1-3 OSI 参照モデル
ネットワーク通信を 7 つの層に分割する OSI 参照モデルを取り上げ、各層の責務と代表的なプロトコル・機器を整理する。
1. なぜ階層に分けるのか
ネットワーク通信は、信号の伝送からアプリケーションのデータ処理まで、性質の異なる多くの機能から成り立っています。これらをひとつの仕組みとしてまとめて扱うと、変更や差し替えが極めて困難になります。そこで通信の機能を独立した層に分割し、層間で受け渡す情報の形式だけを規約として定める設計手法が採用されました。各層は内部実装を自由に交換できる一方、層間のインターフェースが守られている限り全体は破綻しません。
この階層化の利点は三つあります。関心事の分離による独立性、層ごとの仕様策定による標準化の容易さ、そして下位層の媒体が変わっても上位層が影響を受けない差し替え可能性です。こうした思想を体系化したものが、ISO (International Organization for Standardization、国際標準化機構) によって策定された OSI 参照モデル (Open Systems Interconnection) です。
2. OSI 参照モデルの全体像
OSI 参照モデルは、通信機能を 7 つの層に分割します。上位から順に列挙すると以下のとおりです。
- L7 アプリケーション層: ユーザーが利用するアプリケーション通信を担う層。
- L6 プレゼンテーション層: データ表現形式の変換を担う層。
- L5 セッション層: 通信の開始・維持・終了を制御する層。
- L4 トランスポート層: 端末間の通信制御を担う層。
- L3 ネットワーク層: 異なるネットワーク間の中継を担う層。
- L2 データリンク層: 隣接ノード間のフレーム伝送を担う層。
- L1 物理層: 信号としての伝送を担う層。
番号は下から振られ、L1 が最も下位、L7 が最も上位に位置します。
3. 下位層(L1〜L4)— データを「届ける」役割
L1 から L4 までの 4 層は、データを目的地まで運ぶための機能を担います。
L1 物理層は、0 と 1 のビット列を電気信号・光信号・電波などに変換し、伝送路上に流す層です。ケーブルやコネクタの規格、信号の電気的特性などがここで定義されます。
L2 データリンク層は、同一のリンク上で隣接するノード間の伝送を担う層です。データはフレームと呼ばれる単位に区切られ、MAC アドレスによって受信側を識別します。Ethernet がその代表例です。
L3 ネットワーク層は、異なるネットワークをまたいでデータを終端まで届ける層です。IP アドレスによって宛先を表現し、経路を選択するルーティングがここに属します。
L4 トランスポート層は、送信側と受信側のアプリケーション間で通信を制御する層です。TCP は到達確認や順序制御によって信頼性を保証し、UDP は制御を最小限に抑えて低オーバーヘッドを優先します。
4. 上位層(L5〜L7)— データを「使う」役割
L5 から L7 までの 3 層は、届いたデータをアプリケーションが扱える形に整える機能を担います。
L5 セッション層は、通信の開始・維持・終了を管理する層です。複数のやり取りを一連のセッションとして関連づける役割を持ちます。
L6 プレゼンテーション層は、データの表現形式に関する変換を担う層です。文字コードの変換、暗号化、圧縮などがここに位置づけられます。
L7 アプリケーション層は、ユーザーが直接利用する通信プロトコルを担う層です。HTTP、SMTP、DNS などがこの層に属します。
実装上は L5〜L7 が個別のモジュールとして分かれず、アプリケーション内部で一括して扱われることが多い構造です。
5. 各層の役割一覧
7 層を一覧として整理すると以下のとおりです。
| 層 | 名称 | 役割 | 代表例(プロトコル / 機器) |
|---|---|---|---|
| L7 | アプリケーション層 | ユーザーが扱う通信 | HTTP, DNS, SMTP |
| L6 | プレゼンテーション層 | 形式変換・暗号化・圧縮 | TLS など |
| L5 | セッション層 | セッションの管理 | RPC, NetBIOS など |
| L4 | トランスポート層 | エンドツーエンドの転送制御 | TCP, UDP |
| L3 | ネットワーク層 | ネットワーク間の中継 | IP, ICMP(機器: ルーター) |
| L2 | データリンク層 | 隣接ノード間のフレーム伝送 | Ethernet, ARP(機器: スイッチ) |
| L1 | 物理層 | 信号としての伝送 | 銅線・光ファイバー・無線(機器: ハブ) |
下位層がデータを「届ける」ための層、上位層がデータを「使う」ための層という対比で捉えると、全体の見通しが立てやすくなります。

6. 次節
続く 1-4 TCP/IP モデル では、現実のインターネット通信を支える TCP/IP モデルを取り上げ、4 層構成と OSI 7 層との対応関係を整理していきます。
