2-1 イーサネット基礎
Ethernet 規格の全体像。Ethernet II と IEEE 802.3 のフレーム形式、10BASE-T から 100GBASE までの速度規格、全二重とオートネゴシエーション、ケーブル規格を 1 ページで整理する。
1. Ethernet とは
Ethernet は LAN における有線通信の標準規格です。1973 年に Xerox PARC の Robert Metcalfe らが考案し、後に IEEE 802.3 として国際標準化されました。当初の同軸ケーブル上の共有メディア方式から、現在はツイストペアや光ファイバ上のスイッチド・全二重通信へと姿を変えています。家庭の Wi-Fi 以外の有線 LAN のほぼすべては Ethernet が基盤であり、フレーム形式・速度・物理メディアの観点から俯瞰します。
2. Ethernet II と IEEE 802.3
Ethernet のフレーム形式には経緯から二系統あります。先に普及したのが Xerox・DEC・Intel 策定の Ethernet II (DIX) で、その後 IEEE が 802.3 として LLC ヘッダ付き形式を標準化しました。両者は Type/Length フィールド の値で区別され、0x0600 (1536) 以上なら上位プロトコル種別の Type として Ethernet II、1500 以下ならフレーム長の Length として IEEE 802.3 と判断します。
| 規格 | Type/Length の解釈 | 主な用途 |
|---|---|---|
| Ethernet II(DIX) | 上位プロトコル種別(IPv4 = 0x0800 等) | 現代の TCP/IP 通信全般 |
| IEEE 802.3 + LLC | フレーム長 | STP の BPDU など制御フレーム |
現代の TCP/IP 通信はほぼ Ethernet II であり、1-5 で扱ったフレーム構造もこれに該当します。
3. 速度規格の系譜
Ethernet の速度は約 40 年で 10Mbps から、2024 年に標準化された 800Gbps (IEEE 802.3df-2024) まで拡大しました。規格名は「速度・伝送方式・媒体」で表され、1000BASE-T なら「1000Mbps・ベースバンド・ツイストペア」を意味します。下表は普及している主要規格を抜粋したもので、400G/800G クラスはデータセンタ・キャリア網が中心です。
| 規格 | 速度 | 媒体 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 10BASE-T | 10 Mbps | UTP Cat3 以上 | 旧来の事務所 LAN |
| 100BASE-TX | 100 Mbps | UTP Cat5 以上 | 一般端末(Fast Ethernet) |
| 1000BASE-T | 1 Gbps | UTP Cat5e 以上 | 現代の標準(Gigabit Ethernet) |
| 10GBASE-T | 10 Gbps | UTP Cat6a 以上 | サーバ・基幹スイッチ間 |
| 40/100/400GBASE | 40 〜 400 Gbps | 光ファイバ中心 | データセンタ・キャリア網 |
末端は 1000BASE-T、基幹は 10GBASE-T 以上、データセンタのスパインは 100GBASE が一般化しています。

4. 全二重 / 半二重とオートネゴシエーション
初期の Ethernet は共有メディア上の 半二重 方式で、同時送信時に衝突が発生しました。これを制御するのが CSMA/CD (Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection、衝突検出付きキャリアセンス多元接続) で、送信前に媒体の空きを確認し、衝突検知時は待機して再送します。スイッチの普及で各ポートが独立した衝突ドメインとなり 全二重通信 が可能になった現在、CSMA/CD は実質動作しません。
両端の速度と全二重 / 半二重設定は オートネゴシエーション で自動交渉されます。リンクパルスで互いの能力を通知し、共通する最高性能で合意する仕組みです。片側だけ手動固定にすると、速度ミスマッチではリンクアップせず、デュプレックスミスマッチではフレーム破棄や CRC エラーが断続発生します。
下のアニメーションは、半二重リンクでの衝突発生 → CSMA/CD による再送 → 全二重リンクへの切替と同時送受信成功までを 5 ステップで対比したものです。図をクリックで次のステップに進みます。
物理層の実装は規格で大きく異なる
「全二重 = 送信用と受信用に物理的に独立したケーブルがある」というイメージを持ちがちですが、実態は規格によって異なります。同じ RJ-45 1 本でも内部の使い方が違います。
| 規格 | 物理ケーブル | TX/RX の分離方式 |
|---|---|---|
| 10BASE-T / 100BASE-TX | RJ-45 1 本(UTP 4 ペア) | 2 ペアを使用: 送信ペア・受信ペアが物理的に別配線 |
| 1000BASE-T 以降 | RJ-45 1 本(UTP 4 ペア) | 4 ペア全部を双方向同時に使用: PHY チップが echo cancellation で送受信を分離 |
| 光ファイバ (1000BASE-SX 等) | 2 芯 が一般的 | 送信芯・受信芯が物理的に別 (1 芯双方向の BiDi 規格もある) |
つまり Gigabit Ethernet では「送受信線が独立した別物」という素朴なモデルは厳密には誤りで、PHY チップが信号処理で双方向通信を実現しています。上のアニメーションでは概念モデルとして TX / RX を上下に分けて描いていますが、物理層の実装は規格世代で大きく違うことに留意が必要です。オートネゴシエーションで合意される 1000Base-T full-duplex のような表記は、こうした物理層の挙動の上に成り立つ 論理的な動作モード です。
5. ケーブルとコネクタ
Ethernet の物理メディアはツイストペアと光ファイバに大別されます。ツイストペアは銅線を撚り合わせてノイズを打ち消す UTP (Unshielded Twisted Pair) として普及し、Cat5e は 1Gbps、Cat6a は 10Gbps をいずれも 100m まで伝送します。コネクタは RJ-45 が標準です。
光ファイバはコア径で分類され、シングルモード (SMF、Single-Mode Fiber) は長距離・低損失でデータセンタ間や WAN に、マルチモード (MMF、Multi-Mode Fiber) は短距離・低コストでラック内配線に用います。コネクタは LC が主流です。スイッチ側は SFP / SFP+ / QSFP のトランシーバスロットを備え用途で使い分けます。
6. 次節
続く 2-2 スイッチング基礎 では視点を機器側へ移し、スイッチが受信フレームをどのポートへ転送するかを整理していきます。CAM テーブル、ユニキャスト転送、未知宛先のフラッディングといった LAN 内部の動作原理に踏み込みます。
0x0600(10 進で 1536)以上なら「これは上位プロトコルの種別を表す Type だ」と判断して Ethernet II、1500 以下なら「これはフレームの長さを表す Length だ」と判断して IEEE 802.3 とみなす。表にするとこうなる。| 規格 | Type/Length の解釈 | 主な用途 |
|---|---|---|
| Ethernet II(DIX) | 上位プロトコル種別(IPv4 = 0x0800 等) | 現代の TCP/IP 通信全般 |
| IEEE 802.3 + LLC | フレーム長 | STP の BPDU など制御フレーム |
1000BASE-T なら、1000Mbps・ベースバンド・ツイストペア、という意味だよ。
1000BASE-T(1Gbps)、基幹のスイッチ間は 10GBASE-T 以上、データセンタの背骨にあたる部分は 100GBASE クラス、という感じで使い分ける。同じ「BASE-T」でも、対応するケーブルのカテゴリ(Cat5e なら 1G、Cat6a なら 10G)が違う点も押さえておくといいよ。| 規格 | 物理ケーブル | TX/RX の分離方式 |
|---|---|---|
| 10BASE-T / 100BASE-TX | RJ-45 1 本(UTP 4 ペア) | 2 ペアを使用:送信ペア・受信ペアが物理的に別配線 |
| 1000BASE-T 以降 | RJ-45 1 本(UTP 4 ペア) | 4 ペア全部を双方向同時に使用:PHY が信号処理で送受信を分離 |
| 光ファイバ (1000BASE-SX 等) | 2 芯が一般的 | 送信芯・受信芯が物理的に別(1 芯双方向の BiDi もある) |
1000BASE-T 以降は、4 ペア全部を双方向同時に使って、PHY チップが echo cancellation(自分が送った信号を打ち消す処理)で送受信を分離している。だから「送受信が独立した別物の線」という素朴なモデルは、Gigabit では厳密には誤りなんだ。アニメで TX/RX を上下に分けて描いているのは、あくまで概念図としての話だと思っておいてね。